美女と野球

大きな買い物をした。

 

 

 

僕は神保町に寄ってとあるものを再購入した。つい先日のことである。

あるものが長い年月を経て再び僕が手にするべき、いや手にする運命にあるのだと勝手に解釈した。結果的に再び僕の元に舞い戻ってきた。

 

 

早くあるものとの再会に喜びじっくりと堪能したいのだがあいにく僕は急ぎだった。

帰宅までこの気持ちはお預けかな、そう思いながら下北沢へ向かう午後5時過ぎ。

友人のライブを観に行くのだ。観に行く使命にあるのだ。僕はすでに観に行くよと先方に言ってしまってある。急がねば。

 

 

 

ライブハウスに着いた。早く酒を飲みたい。昼から何も食べていないこの状態でお酒をいれれば少しは楽しくなると思ったからだ。あいにく今日はロックバンドのライブを見る気分でなかった。なんでだろう、自分でもわからないけどそういう日がある。

 

 

 

 

バンドが複数出るイベントだった。バンドの入れ替え中に物販を眺める。

CDが売られていた。別に買わなくていいか、そうして視線を外そうとした。

でもダメだった。素敵な女性がそのCDを持ったままこちらをじっと見つめているからだ。

僕はその女性を知っている。けれど話したことはない。

通勤通学で毎日顔を合わせる間柄のようなものでお互い認識しているが話す理由がないから話さない。

困った、非常に困った。僕は美女に弱いのだ。そんな瞳で見つめないでほしい。

嬉しいけれどやはり照れてデレデレするので無言で購入した。

お金は隣の人に渡した。ここまでまともに会話はしていない。

 

 

 

 

ライブを見終わって次のバンドまで時間がある。暇だ。またあの物販を覗く。

欲しくないCDを買った訳だけどまた戻ってきた。目当てはCDじゃない。

目当てに視線を移すとCDを持ちながらはにかみながらこっちを見ていた。

恥ずかしい。もう直視なんてできない。でも嫌じゃないんだ。こういうの。

 

 

 

 

やめて欲しいけどやめて欲しくない。無言でずっと見つめるのはズルいよ。

「わかったよ、もう1枚買うよ」僕はそう言った。初めて話しかけた。

すると彼女は右手を顔の前で横に振った。いいよ、大丈夫だよの意味だろうか。

結局会話のキャッチボールは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

大きな買い物をした。

 

 

 

 

 

 

楽しみにしていたあるものとは、リリーフランキーのエッセイ本だ。 

僕が中学生のときに読んでいた本だ。

僕に悪い影響を与えた素晴らしい本だ。

読み返してみる。

最低でくだらないことばかり書いてある。

最高である。そして素晴らしい。

 

 

タイトルが秀逸だ。「美女と野球」。

内容が美女も野球も関係ないところもいい。

美女と野球がすきだけれど、美女と結婚して野球選手になれば幸せなのか?

いやそれは違うかもしれない、と記されている。

とても共感出来る。 

 

僕は美女を眺めるのが好きだし、音楽も好きだ。

美人の嫁を貰って音楽を聴いていれば幸せなのか?

うーん、自分でもよくわからない。

 

 

本の表紙を眺める。まるで今の僕じゃないか。

塀に登っているのが僕。美女を見てニヤけている。

美女が持っているのはボールじゃないけれど

 

 

恋をしてるとかじゃあないんだ。

けどこんな感覚は懐かしい。

中学生ぶりかもしれない。

ドキドキできるなんて

僕もまだ捨てたものじゃないな。

 

 

 

 

この本は中学生の僕には刺激的だった。

ハタチを過ぎた今読んでも刺激的だった。

僕は中学のときから成長していないのかもしれない。

もしそうならとても嬉しい。

f:id:enumurausk:20161121043554j:plain